心療内科・神経科の薬について メンタルヘルスのページへ戻る

1.はじめに
 「心の健康」や、「メンタルヘルス」ということが言われだして、神経科とか心療内科のクリニックが街でよく見かけられるようになってきました。とはいえ、まだまだ一般の方には、心療内科・神経科はなじみが薄いと思われます。これらの病院・医院ではどのような治療が行われているか、ご存じない方も多いと思います。
 心療内科・神経科の治療は多岐にわたるのですが、大別すると、精神療法(心理療法)と薬物療法に分かれます。その他にも、デイケア、作業療法、生活技能訓練(SST)などのいわゆるリハビリテーションも治療に含まれます。
 病気の種類によってどの治療法を選択するかが、ある程度決まるのですが、各治療者の治療方針や専門性・好みによっても、治療方法が変わってきます。多くの場合、精神療法のみでなく、薬物療法と組み合わせて治療を行っています。心療内科・神経科でも、他科と同様、薬物療法が治療の大きな柱の一つになっているのです。

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2.心療内科・神経科で使われるおもな薬剤
 中枢神経系(脳)に対する影響を通して、精神機能や行動に多少なりとも特徴的な変化を起こすことを主な作用とする薬物を向精神薬といいます。心療内科・神経科の病気の薬物療法は、この向精神薬が中心になります。
●抗不安薬
 抗不安薬とは病的な不安、緊張、苦悶、焦燥などを軽減する向精神薬をいいます。緩和精神安定薬(マイナートランキライザー)と呼ばれることもあります。
 主たる適応症は神経症と心身症ですが、不安、焦燥、自律神経症状等を呈する種々の疾病の治療に用いられます。またアルコール中毒の禁断症状に使用することもあります。その他、抗けいれん作用を有することからてんかんの治療にも用いられています。
 副作用としては、眠気や筋弛緩作用によるふらつきなどがあります。
●抗うつ薬
 主として うつ病 と うつ状態 の治療に用いられる薬物です。憂うつな気分を改善し、意欲や活動性を向上させる作用があります。うつ病ないし躁うつ病のうつ病相、その他種々の疾患にみられるうつ状態に用いられています。
 従来型の抗うつ薬では、口渇、便秘、排尿困難、起立性低血圧、眠気、ふらつきなどの副作用がしばしばありましたが、近年広く使用されているSSRIやSNRIと呼ばれる新しい一群の抗うつ薬はこれらの副作用が少なく、うつ病に対する効果も十分あり、使いやすい薬です。ただし、服用し始めたときに吐き気などの副作用が出ることが時々あります。
●抗精神病薬
 興奮や幻覚妄想といった精神病の諸症状を改善し、情動の安定化をもたらす薬物です。強力精神安定剤(メジャートランキライザー)とも呼ばれています。
 適応の第一は統合失調症ですが、その他に幻覚妄想を起こす各種精神疾患、躁病、激越型うつ病等にも用いられます。
 従来型の抗精神病薬は、パーキンソニズム(筋肉が堅くなり、手が震え、歩き方が小刻みで前傾姿勢になる)等の副作用が起こりやすかったのですが、近年、副作用の少ない新しいタイプの抗精神病薬が広く用いられています。これらの薬には、糖尿病患者の糖尿病を悪化させるといった副作用がありますが、注意して使えば、極めて有効な薬です。
●抗躁薬
 抗躁薬は躁病および躁状態に効果のある薬物です。現在、炭酸リチウムと、カルバマゼピン、バルプロ酸ナトリウムの3つの薬が抗躁薬として使用されています。
●睡眠導入薬
 睡眠導入薬は主として各種の疾患で見られる不眠の治療に用いられる薬物です。いくつかの系統の薬物が用いられていますが、昔から用いられてきたブロバリンやバルビツール酸系の薬に代わって、より安全な(自殺目的などで大量に服薬をしても生命に関わることのない)ベンゾジアゼピン系薬物が主流になっています。
 ベンゾジアゼピン系薬物のうちで、抗不安作用の強いものは抗不安薬として、催眠作用の強いものは睡眠導入剤として用いられています。

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3.心療内科・神経科の薬物療法の特徴
 医学のほかの領域における薬物療法と比較して、主として向精神薬を用いる心療内科・神経科の病気の薬物療法にはいくつかの特徴があります。
●対症療法である
 うつ病では脳内アミン(神経伝達物質)が欠乏していると言われ、統合失調症にはドーパミン仮説(統合失調症の脳内にドーパミン活動の過剰があると想定する仮説)がありますが、精神疾患の本態は未だ完全には解明されていません。従って、今のところ、心療内科・神経科の病気に対する決定的な原因治療はなく、薬物療法は対症療法が中心となり、そのときそのときの症状に応じて薬が使用されています。例えば、うつ状態には抗うつ薬や抗不安薬、興奮に対しては鎮静作用の強い抗精神病薬や抗不安薬、各種疾患に不眠に対しては睡眠薬が用いられています。
●病名だけでは処方は決まらない
 一般内科の治療では、病名やその病気の程度によって治療薬はある程度決まりますが、心療内科・神経科では同じ病名でも治療薬が全く違うということもありえます。薬の種類についても量についても、各医師の経験に基づく「さじ加減」がかなりあるのです。
 前に述べたように向精神薬は「対症療法」であり、症状に応じて薬が選ばれるので、薬の効能書きに書いてある病名以外の患者さんにも使われることがあります。また、個々の患者さんの症状によって、同じ薬でも処方量が大きく違う場合もあります。例えばヒルナミンという薬は5mgから300mgまで60倍の開きがあります。このようなことは他の領域の薬では殆どありえないことではないでしょうか。
●ほかの治療との併用の必要性
 心療内科・神経科の病気の症状は、心理的状況や社会的環境により大きく影響を受けます。激しい精神症状がある間は、症状を鎮静化させるための薬物療法がまず必要ですが、薬物療法単独ではなく、症状に応じて適切な精神療法や生活指導・環境調整・作業療法など、のアプローチが加わることで薬物療法が最大の効果をあげられるのです。

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4.心療内科・神経科の薬物療法の注意点
●薬物への感受性の個体差が大きい
 特に向精神薬においては、同じ量の薬をのんでも現れる効果や副作用が人によって大きく違うことがあります。つまり向精神薬に対する感受性には個体差が非常に大きいのです。アルコールに対する感受性(つまり酒が強いか弱いか)と似た所がありますが、酒に強い人が必ずしも薬に強いとは言えません。ただ、大酒のみの人は薬も速く分解されてしまって、薬が効きにくい場合が時々あります。
●耐性の問題
 長期間連用することで薬の効果が弱まることを耐性といいます。耐性が生じると、同じ効果を得るためにより多くの薬が必要になり、依存症あるいは中毒の状態になります。これを恐れて向精神薬を飲みたがらない人や、薬が必要な人に対して「薬を飲むな」などとアドバイスをする人がいます。しかし、おそれる必要はありません。例えばアルコールの場合、一日1合の晩酌をずっと続けていてもアルコール依存にはなりませんが、毎日1升の酒を飲み続けると確実にアルコール依存になります。向精神薬の場合も同じで、定められた用法用量を守って適切な量を服薬している限り、耐性や依存は殆ど問題にならないのです。
●薬物相互作用
 2種類以上の薬物を併用した場合、薬の組み合わせによっては、お互いに効果を強めあうこともあれば、打ち消し合うこともあります。また、同じ酵素で代謝・分解される薬物を併用した場合、酵素の処理能力に限界があるため単剤の場合に比べて処理速度が遅くなり、結果的に作用が増強されたり遅れて現れることがあります。
 しかし、通常の向精神薬を服用している場合は、一般的な感冒薬や胃薬、降圧剤や抗アレルギー剤は併用しても差し支えない場合が多いようです。身体疾患の薬をのむために向精神薬を中止すると、精神症状が悪くなりやすいので、服薬内容について医師と相談の上、できるだけ継続して服用することが必要です。
●アルコールの問題
 向精神薬もアルコールも肝臓で代謝・分解されるので、同時に摂取すると、両方が肝臓に負担をかけて分解が遅れます。その結果、わり酔いしたり、薬の副作用が強く出たりするし、肝臓も悪くなってしまいます。だから、原則的には向精神薬服用中はアルコールを飲んではいけないと言われています。と言っても、一滴のアルコールも駄目かというと、それほど厳密ではありません。ただし、アルコールと薬の間に少なくとも数時間は間隔をあけ、アルコールはごく少量にする必要はあります。
●予防的服薬の必要性
 向精神薬の多くは、症状を抑えて病気を治す作用とともに、症状が消失した後に再燃しないように予防する効果があるとされています。だから、症状が良くなった後もしばらくの間服薬を続け、安定した状態がある程度続くことを確かめてから徐々に薬を減らしてゆくことが必要です。短期間で薬をやめられる場合もあれば、長期間の予防的服薬が必要なケースもあります。いずれにしても医師の指示通りに服薬することが大事です。自分の判断で薬をやめて症状が再燃してしまう人や、急に薬をやめたことで不安定になる人があるのは残念なことです。

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心療内科・神経科 明石クリニック
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